高度世界2位、世界最長のゴルフコース 雲南省・麗江―JADE DRAGON SNOW MOUNT

地の果てのリンクス探訪

最終回 <続編>


 JADE DRAGON SNOW MOUNTAIN
 GOLF CLUB

 玉龍雪山を眺む壮大なコース


カナダのカルガリ在住アンドリュー・ペナー氏は、ユニークなゴルフ記事を寄稿することで有名だ。彼の物語で一番面白いのは、「世界で一番高いゴルフコース探訪記」である。「フェアウエイは霧にかすみ、グリーンは殆ど1年中雪に覆われている。偏狭的なコースデザイナー達は酸素欠乏症に悩まされながらも、より高度を求めてゴルフ場を造った。世界で最も高いゴルフ場は何処かって?ペルーにあるTUCTU GOLF CLUBさ。彼の地は雲より高く草木も深い。初めてのプレイヤーはハーフも回ると鼻血を流しぶっ倒れるので、警告の看板が立てられた。“高度順化なき者はプレーを禁ず” 高度?海抜4,367メートルだ。 しかし、残念なことにこのコースは16年前に閉鎖されてしまった」

巨大なバンカーからナイスショット、白砂とのコントラストが最高だ。

そしてペナー氏と仲間のゴルフ狂たちは、遂に現存の高度記録保持者に挑戦することになる。ボリビアにあるLA PAZ (ラ・パス)GOLF CLUBだ。「そこは伝統ある18ホールのチャンピオン・コースで、世界公認の最高度。勿論、ボリビアNo.1で驚くほど洗練されたコースだった。高山病にチョッピリ悩まされたけど、世界最高度コースでのビールは美味かった。でも、酔いの回りが気が狂うほど早くて2杯と飲めなかった」

現在登録されている世界高度3位まで(2004年度調
査)を紹介すると、1位ラ・パス GC、(ボリビア)3,292メートル。2位玉龍雪山GC、3,100メートル。3位コパー・クリークGC,(コロラド・アメリカ)2,940メートルである。そして、私達はこの世界で2番目に高い玉龍雪山コースに挑戦することになる。今回の仲間は、ニュージーランドから参加した遠藤泰司さんだ。

昆明から北東の奥地に麗江はある。この地域の雲南省は果てしない山並みが幾重にも広がり、北は四川省、西はチベット、南はミヤンマー・ベトナムの国境に続く壮大な山岳地帯だ。英国の文豪ジェームス・ヒルトンは1933年に、この地を舞台にした「失われた地平線」を発表。その神秘的なユートピア物語は映画化され、“シャングリラ”は世界の流行語になった。

麗江は、1997年に中国ではじめて世界文化遺産に登録された歴史を持つ街である。麗江の名前は、玉龍雪山から流れる金沙江(長江の源流)の“麗しい川”から命名され、白銀の山と澄み切った水が豊富なこの渓谷は昔からシャングリラ(チベット語で素晴らしい土地)と呼ばれてきた。漢族、チベット族、そして納西(ナシ)族に代表される少数民族の宗教と慣習が融合して特殊な文化を形成している。
「この街は13世紀以来シルク・ロードと並んで“茶馬古道”と呼ばれ、雲南省の原産茶をチベットのラサまで馬で運ぶ交易拠点として栄えてきました。この地を支配したナシ族の王家“木氏”は、宋から元の時代を経て中国王朝と連合を組み、当時中国が敵対していたチベットの防御塁として武勲をたてたのです。毛沢東に併合されるまで、800年もの間麗江を守った“不戦独立”の歴史を描いた東巴(トンパ)文字は今も世界で唯一使われている象形文字です」今回もガイドをしてくれた曹鴻星さんが麗江の歴史を語ってくれた。


雲南省の山岳地帯は昔から少数民族が棲みついているが、麗江はナシ族が多くを占めている。「ナシ族はもともと内蒙古で勢力を張っていましたが、数々の戦闘のすえ麗江まで追い詰められました。ナシ族は戦争が下手なのです。男達の仕事は戦争だけで、畑仕事も家事も子育てもみんな女の仕事です。昔は強かったそうですが、戦争がないときに男達は麻雀ばかりして遊んでいました。そして蒙古軍が攻め込んでくると連戦連敗でこの山奥の地に逃げ込みました。山の険しさとナシ族のあまりの弱さにあきれて、蒙古軍は追跡をやめたのです」曹さんの物語だ。

この麗江を世界に紹介したのはオーストリア生まれのジョセフィン・ロック(1884-1962年)という探検家である。“ナショナル・ジオグラフィック誌”の編集者・カメラマンであったロックは



クラブハウスと若い警備員

27年もの間、麗江に住みつき中国北西部やミャンマーの山岳地帯を探索した。首狩の習慣を持つ山岳民族や猛獣から身を守るため、ナシ族の若者を訓練、武装させ幾多の危機を脱しながらの探検だったという。寒・温・亜熱帯が混同するこの地域は4000種の植物の宝庫で、ロックは1000種もの新種を発見、一躍植物学の権威となった。しかし、ロックを世界的に有名にしたのは、1936年にチャーター機で玉龍雪山を上空から撮影、白沙の渓谷に強制着陸するなどの冒険の末、この山と麗江の街の写真を世界に初めて発表したことだ。彼はまた玉龍雪山の麓の玉湖村をベースにナシ族の生態を調査し「中国西南古ナシ族の王国」という紀行書を出版、この本は世界中の人文・地理学者から賞賛を受けている。

ジェード・ドラゴン・スノー・マウンテン・ゴルフクラブは、標高2,400メートルの麗江の街から更に700メートルを登った山奥にある。クラブハウスから仰ぐ玉龍雪山の巨大な鋭峰は圧倒的だ。この黒い岩壁と氷河に守られた嶺々はヒマラヤ山脈最東方で、更なる東は大高原を経て中国大陸となる。「大小13のピークがあって、龍が横たわっているように見えるため“玉龍”の名前がついた。中央に聳える扇状の主峰が海抜5,669メートル、未踏峰の扇山です。これまで中国の登山隊が3度にわたって挑戦しましたが、皆失敗しました。登山家が命を落としたとも聞いています。中国人はまだまだ登山が下手なのです」と地元の長老が語ってくれた。

玉龍雪山ゴルフクラブは2003年に完成、氷河に削られたU型圏谷の台地に造られた標高3,100メートルのコースは世界第2位の高さだ。ペナー氏が言うように異常な集団が創ったらしい。「麗江に来る観光者はいるが、ここまでゴルフをしに来るか?」という遠藤さんの疑問に全く同感だ。早速調べてみると、開発者は香港の財閥で設計者はシンガポールと中国をベースにゴルフコースを開発しているロビン・ネルソンとニ-ル・ヘイワースというアメリカ人であることがわかった。彼等はこう反論している。「ここではプレーをする前に景観と高度に圧倒されて息が詰まるんだ。世界のどこへ行たってこんなゴルフは絶対に経験できない。人生一度はプレーする価値がある」その経験代は130ドルで中国ではやや高めだが、「それでも経営は難しいと思う」我々の正直な感想である。


世界遺産に登録された麗江の街並み

彼らのこだわりは高度だけではなく、計画的に世界最長のコースを造った。チャンピオン・ティーから8,548ヤード、パー72。「世界最長ホールの711ヤードに次いで長いのが18番695ヤード、パー5。11番530ヤードに代表されるパー4は500ヤード以上が5ホール、(最短のパー4は436ヤード)。パー3は260ヤード以上が3つ、特に8番(267ヤード)はグリーン右端が池で、賭けてもいい、タイガーやジョン・デイリーが来たってパー・プレーは難しい。挑戦を受けるよ」と世界一偏狭的なのだ。

「でも、心配は無用です。下界より20パーセントは飛びますから」クラブのプロに脅かされたり励まされたりして、いよいよティーアップだ。


スタートの1番ホールからチャレンジが始まる。やや下りの681ヤードパー5、2打目の落下地点の右には大きな湖、左にはコース沿いに白砂のバンカーが連続的に造られている。「思ったより戦略的に設計されていますね」まだ余裕があった私は湖面に映る銀色の峰を見て束の間のプレーを楽しんだ。

長いホールの連続に驚いている暇はなかった。5番ホールは711ヤード、パー5(HDCP 2)、「世界最長のホール」とナシ族のキャディが誇らしげに言う。日本人ゴルファーのために「世界最長」を教え込まれたらしい。ドライバーの落し所にはバンカーが横並びに待ち構えていて、プレッシャーをかけてくる。2打目は池と巨大なバンカー群で守られている狭いフェアウエイにピンポイントのウッドショットを打たねばならない。さらさらの白砂からのバンカーショット、うねったアンジュレーションと芝目のきつい3段グリーンとありったけの技術を駆使しなければならないシグネチャー・ホールであった。
(写真2)

後半の14番、492ヤード(パー4)は最も難易度の高いホールだ。10月末の麗江は夜明けには気温が零度近くに下がり霜が降りる。好天に恵まれたのは嬉しかったが、霜解けのコースはカートパスのみで歩く距離は半端じゃない。高地ゆえに燦燦と照る太陽光は強く汗が噴き出てくるし、20%は飛ぶはずのドライバーも登りでは全く役に立たない。フェアウエイの芝がきつくランがでないのだ。急登攀、谷超えのホール設定で「2オンは没有(不可能)」半ば強制的にキャディに言われてレイアップ。3打目は130ヤード、杉林越えの高弾道の球を打たねばならない。やっとの思いでグリーンに立つ頃にはもう、息が切れた。キャディがなにやら魔法瓶みたいな物を持ってきた。「スアンスウ、サンスウ」よく見ると何と携帯酸素ボンベだ。私たちの呼吸困難状態を見て危険と思ったらしい。私たちは「プヨウ(不要)だ」と強がったが、ナシ族は「それなら、もっとしっかりしたスウィングをしろよ」みたいなことを言って笑っている。酸素ボンベは全てのカートについていて緊急時でなくともよく使われるらしい。ちなみに、使用価格は30元(450円相当)。


高山植物に目がない遠藤さんがとうとうエーデルワイスを見つけた。「実は昨日から探していたけど、やっぱりあったね」と、とても幸せそうな顔をした。「嗚呼、これがエーデルワイス?この花は春には山いっぱいに咲くわ」と言ってナシ族がエーデルワイスのメロディを口ずさんだ。「あれ?どうしてこの歌を知っているの?」「ジュリー・アンドリュースが映画で歌っているわ」みたいな会話になった。それまでナシ族は文明からかけ離れ現代文化は無し、と身勝手な推測をしていただけに驚かされた。もっと、話してみると、「片言だが英語と日本語は自分で勉強した。お母さんにお小遣いを上げて、あとは貯金をして大学に行く。そのためにキャディをしている」と言う。更に問えば、村の長老の娘で成績優秀らしい。ナシ族を馬鹿にした罪で「チップは倍」ということになった。ここのチップは倍で150元、20ドル弱を払った。
(写真3)


一仕事終えて、トランプに興じるナシ族の女性達        


私たちは酸素の助けを借りることもなく、鼻血をだすこともなく無事完走したが「20%も飛ぶなんて嘘だ。今日は一日ウッドとサンドウェッジだけで過ごした」という遠藤さんのコメントに象徴されるゴルフだった。しかし、「この満足感は何だろう?」「高度と超のつくロングコースという究極のゴルフへの挑戦でしょう」「そして、やっぱり氷河をかぶった山ですよ」立教大学山岳部OBでヒマラヤ遠征の経験もある私達にとって、全てのホールから神々しい玉龍雪山が見渡せるこのコースは最後まで圧巻であった。「この次は4000メートルのラサ(チベットの首都)にできたという世界最高地のゴルフに挑戦しよう」「もうすぐ西安からラサまで、2泊3日の山岳高速列車が完成するそうです。それに乗って行けばなおさら面白そうだ」
懲りないゴルフ狂の夢は膨らむばかりだ。

 
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